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「育休3年」延長案の欺瞞 ー安倍総理案に反対する理由ー

安倍総理が、育児休業を3年まで延長するように経済界に要請したというニュース

私は、働き方の選択肢の一つとして、将来的に「育休3年」が可能になること自体には賛成です。(*選択制夫婦別姓を支持する理由と同じで、多様な価値観の元で、多様な選択肢を保障することには同意)

ただし、今の状況から鑑みてこの政策がどのような効果をもたらすか、またこの案を主張する政治家にどんな意図や根本的な思想があるかを考えると、私はこの提言に強い反発を覚えます。

今の時点での「3年育休」導入は、特に女性の働き方や子育てにおいて、多様な選択肢を保障することにつながるとは到底思えないからです。むしろ、女性の働き方や子育てを一定の価値観の元に方向付けるものだと危惧しています。


以下は、私がこの提言に反対する理由2点、および欺瞞だと感じる点です。

反対するのは、「育休3年」が本人にとっても会社にとってもあまりに非現実的だから。
具体的には、

 3年仕事を休む」ことの意味
3年休んだとして本人や会社や家族にかかる負担 

が考慮されていない(もしくは考慮されているが意図的に無視されている
)ことの2点です。

欺瞞だと感じるのは、安倍さんが口では「女性の社会進出」を応援し、日本の経済力活性化のための重要なキーとして見なすようなスタンスを取っている点です。「育休3年」は、子育てや仕事を含めた女性の生き方を、物理的にも精神的にも制限する政策になると考えています。その背景には女性の仕事に対するリスペクトの足りなさや、子育てを女性中心で押し進めようとする保守的な価値観があります(理由は後半で述べます)。むしろ開き直ってすでに研究上とっくの昔に否定されている「3歳児神話」でも唱えてくれた方が、首尾一貫していて好感がもてるレベル。

現在の育休取得率は、男性2.63%、女性87.8%(2011年度 厚生労働省)
ちなみに2010年までは男性の取得率1%台。その差は歴然としていて、どう考えても今の育休制度は現実的に女性のためのものになっています。

これを踏まえた上で、育休3年延長案へ反対する理由を書いていきたいと思います。


 孱廓仕事を休む」ことの意味

育休をとって復活する人(主に女性)は、よく職場に戻ることの大変さを言います。
私自身、育休ではありませんが、博論を提出したあと、1ヶ月ほどひたすら今まで出来なかったことをやりました。博論を出すまでの長い5年間は博論のための研究が中心の生活で、博論提出直前の3ヶ月は毎日16-17時間パソコンの前に座っていたのが、博論を出してからはひどく解放された気分になて、今まで溜まっていた研究とは関係のない本を読んだり、ドラマや映画を毎日2,3本を観たり、運動不足解消のためにジムに通ったり、完全に今までの研究分野とは離れたことをやりまくりました。そのあと、元々の研究のペースを取り戻すのに、結構な時間がかかりました。

根つめて仕事をやってきた人間が、急に異なった生活ペースになり、またもとの世界に戻ろうとするときには、人間誰でも結構な時間がかかるし、その精神的負担も大きいもの。
ピアノを弾くのを一日休んだら、一週間さぼったのと同じ、というのを聞いたことがあるけれど、仕事も似たようなことが言えると思います。

「育休3年」というのは、結局は3年休んでもどうにか復帰できるような仕事についていることを前提にしているか、もしくはそういうタイプの仕事に女性を押し込めているように感じます。

ツイッターでこの発言をしたとき、「お金のために働く女の人には朗報」というコメントをくれた男友達がいました。「お金のために働く」というのも色んなパターンがあるので一概には言えませんが、時間と労働力を提供する代わりにお金を貰うと割り切って働く、という意味に解釈するとしたら、たしかに3年育休は朗報なのかもしれません。子どもを育てて落ち着いて、またお金が必要になれば働き始めるというのは、現在の元専業主婦だった女性がやっていることでもあります(私の母もそうです)。

ただしそれは、女性自身が仕事を休んで育児が中心の生活になってもいいと思うのであれば、の話。
私を含め、仕事が楽しくて、仕事に意味を見いだし、子どもを産んでも仕事を続けたい女性にとっては、その働き方は決して理想ではない。私は個人的に、自分の今やっている研究という仕事が、3年育児中心になったあと復帰して、また再開できる仕事だとは思っていないし、自分自身、休みたくありません。

育休3年取ってその後社会復帰すればいいと主張する人は、自分が総理大臣や国会議員や名誉教授職や会社の幹部職を3年まるまる休んで、毎日ご飯作って子どもと遊んで過ごした後、3年後に現場に戻って同じ仕事をしようとしてみたらいい。結局、育休を取る側(主に女性)の仕事をその程度の軽さにしか考えていないことの象徴であるように思います。

これは安倍さんが「育休3年」を提言したときに言っていた、女性を会社の管理職に採用するように奨励するという発言と矛盾しているのです。3年間育休をとれるように(=子育てに集中し、キャリアにブランクを空ける)、一方で取締役に女性を一人は登用しましょう・・・なんていうビジョンは、あまりにも都合がよ過ぎだし、非現実的です。


■廓休んだとして本人や会社や家族にかかる負担

2点目は、3年間仕事を休んでその後復帰するということが、女性本人にとってはもちろん、会社にとっても大変な負担をもたらすものであるということ。そして、そのようなキャリアプランを取れる仕事は限られているのではないか、ということです。もちろん職種にもよりますが、会社からしてみれば、今まで活躍していた人がたとえ1週間でも、1ヶ月でも抜けたら残された周りの人が大変なわけです。代理を立てることが難しいポジションにいたり、専門的な知識を要求される仕事ならなおさら。

育休を取らない人にしわ寄せがいなかいようにすることはとても大事なことだと思います。会社などの組織の中で、子どもがいるから大変よね、と協力する環境や雰囲気づくりは確かに大切だけれど、それで子どもがいない人、子どもを作る予定のない人に負担が行くような仕組みはおかしいし、回避すべき。大体、子どもができたら会社を辞めざるをえない女性が多いのも、会社や同僚に負担がかかるから、というものが多いでしょう。

私がインターネットで読んだ意見の中でも、育休3年制度へ反対する人への意見としてこんなものがありました:「何度も書くが、育休3年制は義務ではなく、選択の幅を拡げる制度だ。実際にどのくらい取得するかは個人が決めればよい話だ。最長3年であっても、3ヶ月で切り上げることもできる」。

この考え方は文章上は一理ありますが、現実問題としてこれが本当に「選択」として存在しているのか、選択し得るのか?という点に疑問があります。

実際に今でも、子どもができたら会社を辞める人/辞めざるを得ない人(主に女性)はかなり多い。たとえ1年半でも、育休をとって職場復帰できているような会社や人がどれだけいるのでしょうか。選択肢を与えていると言いつつ、実際は女性は3年育休で休む可能性があるということが、女性が働きにくい(企業に就職しにくい、責任ある仕事を任されにくい)社会の雰囲気を後押ししないでしょうか?

今の日本社会は、そして多くの(自民党の)政治家は、「子育ては女性が重要な役割を果たすもの」という生物学的な現実と「女性がやるべきものであるし、やったほうが子どものためによい」というイデオロギーとを混同して、「女性はやはり子どもができたら子ども優先になってしまう」という女性の自己選択に帰する責任転嫁論に仕立てあげ、女性が子育てをするのが当たり前であるという雰囲気を作り出している


このような社会政策を考えるときに必要な視点として、福島大学で労働経済・社会政策を教えている @kumat1968 先生が「いま育児休業制度を享受できるのはどんなひとか」「そのひとたちの育休が伸びることにどんな意味があるか」「それ以外のひとたちが育休をとりやすくなるか」「育休制度が汲み取るべきなのはどんなニーズか」を想像して論じてもらう必要がある、ということを指摘していました。

女性が3年働かずに育休をとって生活していける夫婦が一体どれくらいいるのでしょうか。先ほども述べたように、私は一つの選択肢として「3年育休」があってもいいとは思います。ただ、育休が3年に伸びたとして、その制度を活用できる人がどれくらいいるのかということを考える必要がある。

今回の提言でも問題になったのは、例えば育休が3年になっても、扶養手当ができるには既存路線の1年半のまま。例え望んだとしても、3年フルで育休をとって暮らせる人は、夫婦のどちらか(基本的には男性)が奥さんと子どもを養えるだけの経済力を持った上位階層の人たちだけです。

もちろん子どもができたのを機に会社を辞めたい人や、育休をより長く取りたい人の意思は尊重されるべきですが、多くの場合、それが女の意思であることに加え、もしくはそれ以上に、女が「そうせざるを得ない」という社会状況にあるのではないかと思っています。そして3年育休は「そうぜざるを得ない」風潮を助長する可能性がある。


ライフワークバランスや育児/家庭/結婚のテーマになるとやたらと、必ず湧いてでるのが、「専業主婦になりたい人もいますよ。」とか、3年休んで働きたい女性もいるのではないのですか?という指摘。(特にこの手の女性の働きたい発言がすべてフェミニストの思考から生まれるものと解釈し、フェミニスト的な考え方にとにかく不快感を覚える人たちというのが一定数存在するのではないかと思えるほど、毎回同じような形の反論がきます。私はフェミニストを自称した覚えは一度もないんですが。)

何度も言うように、私はそういう人がいることを否定している訳でも生き方を否定しているわけでもまったくない。確かに私は「働きたい女」であり、子どもも生みたければ仕事も続けたいという贅沢な女であるかもしれないし、あなたの知ってる女とは違うかもしれない。しかし、政策を考えるときは、育休3年を活用して恩恵を得ることができる人たちと、「そうせざるを得ない」状況に追い込まれて生きづらくなる人たちを含めて考えながら、その政策が社会に与えるインパクトがどういう点で大きいのか、ということを考えなければいけないでしょう。

私は、少子化対策として有効なのは、多くの方が主張しているように、子育てしながら仕事を続けられる環境を作ることだと考えています。そのためには、パートナーである男性との役割分担や、社会がそれを支える仕組みが必要。確かに「仕事」とは、所属企業等への貢献や自分実現のためだけではなく、子どもを育てることも立派な仕事です。だとしたら、それは母親だけでなく、父親にとっても子育ては立派な仕事です。かつ、子どもは家庭だけでなく、社会のなかで育つもの。

そういう風に意識を変えていかなければ、実際問題として女性の育休を3年に伸ばしても、女性に長い育休の選択肢を与えるという側面より、日本社会における女性の生きづらさを助長するという側面の方が遥かに大きいと思います。


【3年育休案のオルタナティブ】 とも働きしよう、みんなでちょっとずつ働こう

私は、現実的問題も踏まえて、理想としての「共働き」を推奨しています。

その理由は、実際問題として、私もしくは相手の収入が、片方だと二人ないしは将来の子どもが行きていくために十分ではないことです。2人で稼いだら余裕のある生活ができるけど、片方だと切り詰めたらどうにか暮らしていけるが、病気にかかったり何か問題があったときに困るレベル。私自身は、相手(男)が専業主夫になりたいといったらいわゆる「扶養」をしたい気はありますが、残念ながら現在私にはその経済力がないのです。

私にように、現実的に共働きせざるを得ないという人は、現在どんどん増えていると言われています(下記参考文献も参照)。私の友達にも専業主婦をやっている人はたくさんいますが、その子たちは旦那さんが有名企業で働いていたり、不動産を持っていたり、安定した経済収入がある人たちばかりです。しかしそうではない人は、経済的理由から、1人が外で稼いで1人はうちで家事と子育てをするというのは現実的に難しい。

もう一つの理由は、リスクマネージメントです。震災と原発問題があってから、私の将来に対する考え方はより流動的になりました。前から、家を買ったり、一生日本に住み続ける気もなかったけれど、その考えがより加速しました。「どこに行っても生きていける能力」を手に入れることがとても大事だと考えていて、その意味でも、現金収入を得るためのツールやスキルは多い方がいいし、色んな可能性を二人で持っている方がいい。二人がそれぞれ独立して働く能力があれば、たとえどちらかが体調を崩しても、仕事がなくなっても、お互いに支え合っていけるからです。

そして、どんな技術も仕事も、そして自分の価値も、磨き続けなければ廃れていくものだと思います。
3年間、育休しながらそれを磨き続けられればいい。
でも、それはかなり難しいことだと思います。学生のときから、「家では勉強できない、図書館(や塾)に行かなきゃ勉強する気にならない」なんていう人は決して少なくないと思いますが、育児はものすごく大変なことらしいので(私も未体験ですが)、育休をとって育児を1人でこなしながら、将来の仕事復帰に備えて家でその準備もする、なんていうのはかなり困難を伴うように思えます。

だから、女性の社会進出を真の意味でサポートし、育児をカップルで、社会で支える仕組みが不可欠。そのための保育園であり、待機児童問題の解決が望まれます(私は子どもの社会性を伸ばすという点でも、小さなことから誰かに預けたり保育園で家族以外の人たちと交わるチャンスを増やすことに賛成です)。

それは「育休」の年月を伸ばすことではなく、|棒も育休を取りやすくすること(たとえ義務にしたとしても)、男女ともに時短で働ける仕組みを作ること。育休延長を行っても、結局育児休業を取るのは女性だけになってしまうのは、現在の状況をみれば分かること。それよりは、女性も男性も、子どもができたら時短で働けるとか、フレックスタイム制をもっと自由に使えるようになるとか(勿論ある程度の給料減額も考慮に入れて)できるほうが、よっぽど働く人のためになると思います。




共働きで子育てを予定している人にはこんな本もオススメです。家庭での役割分担の考え方から保育園の探し方まで、役立つ情報満載。



以前にも紹介しましたが、女として母として、子育てをどう考えるかについては、この本がとても参考になりました。初版は今から40年も前の本ですが、今でも女性が抱えている問題がそのときと変わりがないということに恐ろしさを覚えるとともに、子育てというのは人間にとっての永遠のテーマなんだなということを考えさせられます。






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